【第61回】 《2006年8月》

   平成8年、テレビ東京で『丹波哲郎の不思議世界』が放送されました。
   この番組は、ゲストの不思議な体験を聞き、丹波哲郎が解説していく内容でした。
   番組の内容を日本文芸社から出版しました。(絶版)
  
『本当にあった霊体験・臨死体験17人の証言』というタイトルです。
   その17人の体験談を、抜粋し御紹介していきます。

   以前も一部御紹介した内容もありますが、再度詳細に掲載していきます。
   対談形式ではありませんが、お許し下さい。


  
       幽体は生霊となって瞬間移動する

             〜立河宣子さんの体験〜


      
  生霊として好きな人のところへ飛んで行く

 
《前回の続編》

丹波 「生霊となって出てこられては、男性も言い訳のしようがない。おそらく二股、三股かけていたのだろうが、その彼を思う女性の気持ちが、家に住みついてしまうほど強かったということだ。

 彼はあらためて立河さんとやり直したいと言ってきたそうだが、彼女はがんとして受けつけなかった。若いうちは許せない気持ちが先に立つこともわかる。しかし、独占欲の強さが自分自身を追い込んでしまいがちになることはいささか心配である。
 
立河宜子さんのように霊媒体質の女性は、その分、ほかの人にはわからないものまで見えてしまうから本人も大変だが、相手の男性にしても隠しごとができない不自由さがある。決して男性の肩をもつわけではないのだが、彼女のような霊能力者には霊界からの応援団がたくさんいるはずである。

 「そうした力が背後にひかえているのだから、どっしりと構えていればよろしいのではないですか」

 私は立河さんに、こんなアドバイスをした。
 さらに、次のような内容の話もした。

 霊界で決められた相手はただ一人しかいない。心をひかれる男性にたとえスペアが一
人一二人いようとも、要は魂が感じ合っているかどうか、そこが肝心なのだ。本当に魂が合っている者同士なら、シャネルスーツの女の子にくれてやろうと男性は自分のところへ帰ってくる。結局のところ決められているのだから、自然に落ち着くところに落ち着くものなのだ。

 男と女の出会いでは、魂の合う相手、肉体の合う相手と、いろいろな愛の種類があるものだが、やはり魂の合っている愛を大事にしていただきたいと願っている。



        自分自身が生霊となったケース

さて、立河宜子さんにはもう一つの体験がある。


立河「20歳のとき、理由があって家を出て、友達の家で生活をしていたことがあったんです。帰れない状態が続いたんですけど、家に帰りたいな、お母さんに会いたいなという気持ちが強くなっていったある日、母親から電話が入ったんです。

 『ノンちゃん何やってんの? 今帰ってきたでしょ』と言うんですよ。

 そんなはずはないんです。実家は東京、友達の家は千葉で、私は一歩も外に出ていないんですから。でも母親は信じないんです。

 『今、私が居問で昼寝をしていたら、ただいまって帰ってきて私に毛布をかけてくれたじゃない』。

 そして泣きながら『ノンちゃん帰ってきたじゃない、早く帰ってきなさい、体も帰ってきなさい』って言うんです」



丹波
 つまり、立河さんは母親を思う気持ちが高じて、生霊となって家に帰っていたのだ。それが霊媒体質のお母さんには、はっきりと見えたということなのだ。

 しかし、幽体の場合は毛布をかけるなどの行動はふつうはしない。やろう、と思ってもできないのである。それができたという点で、ひじょうに特異な例だといえる。

 幽体では、あらゆる物質が通過してしまう。そのため、たとえ毛布を持とうと思ったとしても、幽体の手は毛布を貫通してしまうので動すことができないのである。ごくまれに動かすことがあるが、それは幽体そのものがやっているわけではない。肉体から抽出された〃エクトプラズア〃というものが動かしているのである。

立河さんのケースを説明するとこうなる。


 立河さんの肉体から抜け出した幽体が、お母さんに毛布が必要だと思う。意識は幽体のほうにうつっているから、お母さんを思う心は通じるわけだ。するとその気持ちを察したお母さんの肉体からエクトプラズマが出てきて、娘のかわりに自分で自分に毛布をかけるという現象を起こすことになる。これが真相なのである。

 生霊は始末が悪いと言ったが、立河さんのケースからもわかるように、とくに誰かに危害を加えたりするというわけではない。その点では、いたずらに生霊を恐れることはないのである。シャネルスーツの女性のように、恋人同士がもめる原因をつくることもあるだろうが、見方を変えれば彼女の彼に対する愛情の発露といえなくもないのである。

「彼と彼女の生霊」ということでは、次のような愉快なエピソードもある。
「いきなり、僕のところへ飛んできている女の子がいましたからね。家の中に一瞬見えたので、アレッ、いつきたんだろうと思って電話をすると、彼女は家にいた。僕自身も抜けて行っていることがありますしね」

とは、心霊研究家だった故・池田貴族さん。恋人同士のこんな行き来なら、生霊もまた楽しである。
                                            (つづく)