丹波哲郎が語る「死後の世界の実相」

〜第50回〜
《2005年2月号》



          『週刊大衆』連載中
                平成16年11月8日から40回の連載記事から

      宇宙に訊け(そらにきけ) 其の三

霊界では、言葉は必要なし。目と目でわかりあえる。


 
  ★ 来世の宣伝マンが薔薇色の「死後」を説く


 こんなことをいうと驚くかも知れないが、私は、子供の頃はひどい「どもり」だったんだよ。相撲取りがシコを踏むみたいに、地団駄踏まなくちゃ発音できないほどだったよ。
 それが、中学校に入った頃には、コロッと治ってしまった。
 神様っていうのは得てして、こういう人間を雄弁家にするんだな。あの田中角栄だって、少年時代は「どもり」だったというじゃないか。
 「どもり」だった私が、終戦直後はGHQの通訳までやったよ。

 しかし、通訳といっても、私が英語が堪能だったというわけじゃないんだな、これが。
 たまたま中央大学で英語会話会に入り、要領だけで、いつの間にか議長の肩書きまでもらってしまったんだ。特に英会話を一所懸命やったわけじゃない。それを、どこでどう探したのか、外務省は私のキャリアに目をつけ、外務省臨時嘱託でGHQの通訳として雇いたいといってきたわけだ。
 まあ、彼らが私の発音にだまされたというのはあるな。というのも、私の英語の発音というのは、日本人離れしている。これは中学2年の時、カナダ帰りの、日本語がチョットおぼつかない友人と親しくなったからだ。まだ耳が柔らかいから、向こうの発音そのままを取り込めたわけさ。

 だから、外務省の人間から試しに簡単な英文を渡されて読んだときも、発音だけは本格的。日本人には難しい「L」と「R」の発音の区別が簡単にできてしまう。英語はしゃべれないのに、発音だけは完璧なんだ。それで、相手は勝手に「こいつは英語が達者だ」と思い込んだわけだよ。

 GHQで仕事をして驚いたのは給料の良さだ。当時、私のすぐ上の兄は東大を出て住友金属に勤めてたが、月給は160円か170円。ところが、こっちは300円以上。いきなり高給取りになってしまったわけさ。
 しかし、仕事の方はというと、いつもビルの中を地下室やトイレと逃げ回っていた。だって、通訳すれば、英語が出来ないことがバレるじゃないか。どうしても逃げられない正式な通訳の仕事がきたときは、ハワイ生まれの日系二世の伍長に、オレの替わりをさせた。つまり身代わりだな。彼にはいろいろサービスして、最後は軍刀までやったよ。

 結局、通訳は2年で辞めた。こんなのは、いつまでも若い男がすべき仕事じゅないと思ったからだ。しかし面白いもんだよ。役者になると、今度は「GHQの元通訳」というキャリアのお陰で、外国映画の話が来るようになったんだ。

 初めて出演した外国映画は、キャロル・ベイカー(『ベビイドール』『大いなる西部』などで知られる美人女優)と共演した『太陽にかける橋』、1962年のことだ。
 この時は台本の台詞をただ暗記するだけだから、ラクだったな。
 その2年後にはハリウッドの大作『第七の暁』のオファーがきた。この頃には「丹波哲郎は英語が堪能である」という伝説が、一人歩きしていたわけだ。それを否定も肯定もしないんだから、我ながら、図々しいヤツだと思うよ。


        念じさえすれば瞬時に目的地にだどり着ける

 ロケ地であるクアラルンプールで監督・キャストが揃って記者会見が開かれたんだが、例によって態度はデカい。確かにテレビ中継も入ったはずだよ。記者連中はみんな私が英語が出来ると思っているから、当然、英語の質問がバンバン飛んでくる。
 これに対し、私は「イエス」「ノー」以外は一切いわない。身振り手振りも交えて「オー、ノ〜」「オー、イエ〜ス」と堂々とやるわけだよ。
 あとは「アハ〜ン」と軽く相槌を打つ程度。こんな受け答えでも通ってしまったから不思議だったよ。あとでスタッフに聞いたら、オレの答は全て当たっていたというんだ。
 それでも『第七の暁』は撮影期間も長かったから、自然と英語はしゃべれるようになったよ。クアラルンプールのロケが6ヶ月。ロンドンに行って、また7ヶ月。ロンドンではオートバイ会社の受付にいた女の子と仲良くなったんだ。まあ誰だって現地の女の子と一緒に過ごしていれば、語学なんて上達するさ。帰国する頃には、寝言も英語でいうレベルになっていたよ。

 だから『007は二度死ぬ』(1967年)の頃には、英語で苦労することはなかった。それどころか、自分で創った丹波流英語を勝手に使ってやったよ。
 映画を観てもらえればわかるが、私は「セクシー」といわなければいけないところを「セクシフル」とやった。こんな言葉は辞書にもどこにもな〜い。しかし、監督は面白いといってOKを出すんだな、これが。
 ただし、私のセリフは結局、吹き替えになった。というのも主演のショーン・コネリーの声が私より高い。向こうの観念では東洋人の声は西洋人より高いというのが常識なんだ。それで、私より声が高いチャイニーズが吹き替えたわけだが、「セクシフル」はそのまま残ったよ。

 まあ、英語に限らず外国語なんてそんなもんだよ。言葉が分からないからといって変にコンプレックスを持ったり、卑屈になる必要なんて、これっぽっちもないんだ。私がいうんだから、まちがいな〜い。

 よく「霊界では言葉はどうなってるんだ」と質問する人がいるが、そんな心配は全く無用。顔と顔を見合わせるだけで、すべての会話、コミュニケーションがではてしまうんだ。
 国籍の問題については、こう考えるといいだろう。日本の上空には日本人の、アメリカの上空にはアメリカの……という具合に、霊界はほぼ国別に分かれて広がっている。

 しかしだ、人間界での国籍が日本でも、アメリカの霊界のほうがふさわしいと考えれば、そっちに行ける。あるいはフランス、ロシア、インド……と、どこの霊界に行くのも自由。
 移動だって自由自在だよ。「ここへ行きたい」と念じさえすれば、瞬時に、その場所に行ける。
 山や岩も通り抜けてしまう。どうだ、素晴らしいだろう。とにかく世界中の人がひとつになれる世界が霊界なんだよ。
                                       《次回につづく》