丹波哲郎が語る「死後の世界の実相」

            〜第3回〜  死後の世界をかいま見た人びと

                    《2000年11月掲載》


●臨死体験者が語る〃共通体験〃

 たとえば、人間が死ねとどうなるかということ──これは克明にデータが出ているのである。
 全世界のいろいろなところで、毎年200人くらいの人びとが近似死(ニア・デス)、つ まり、一旦死んだものと思われる状能から、再びこの世に蘇生しており、そのかいま見た〃死後の世界〃の体験を様々のかたちで報告している。しかも、それは驚くべきことに、場所や人 種を問わず、まったく〃同一の事実〃ともいえる報告であるのだ。

 アメリカのレイモンド・A・ムーディ Jr.博士が、このような体験事例を集めて報告した『かいまみた死後の世界』(中山善之訳・評論社刊)を読んでみても、体験者の報告はそれぞれ非常に酷似している。
 私自身、同様の体験をした日本人のデータをいくらか集めているのだが、やはり結果は同じ であった。
 具体的に例をあげれば、私の友人の俳優・藤岡琢也の入院中の話である。
 彼は私が話すまで、そのときの〃体験〃は熱にうかされてみたものだと思っていたという。 ところが、そのときの彼は、完全に身体が冷えていて、医者はもちろん、家族も〃死んだ〃と いうことを納得していた状態だったのである。
 彼もまた、私の話したとおりの〃世界〃をかいま見た人間のひとりだったのである。


●〃共通体験〃とは何か?

 彼らは、どのような〃死後の世界〃をかいま見たのか。
 それらの体験談から共通する部分をまとめてみると、こういうことである。
 まず、死の苦しみ、肉体の苦痛が最高潮になってきたとき、自分のイマジネーションとして は、何か暗い、黒いところへ追い込まれたような感じがする。
 自分の〃意識〃だけは、ふしぎにはっきりとしていて、医者が自分の死亡を宣告する声も明瞭に聞こえている。
 すると、耳障りな〃不快音〃──「ブーンプーン」「ザーザー」「ガーンガーン」というよう な音が聞こえはじめ、同時に自分が長い、暗い〃トンネルのようなところ心を急速に移軌して いくのを感ずる。
 この〃トンネルのようなところ〃というのは、表現はまちまちで、「エントツ状のようなと ころ」「ドーム状のなか」「溝のなか」などいろいろあるが、いずれにしても、暗い、狭いとこ ろを急上昇する、という点では一致している。
 やがて、そこから、いきなり明るいところへフワッと出る。
 自分としては2000メートルも上昇したような気がしていたのに、見ると、部屋のせいぜい2メートルか3メートルほど、天井あたりのところにいることが判る。 しかも、斜め45度くらいに自分の身体は傾いていて、自分の死骸を見ている。
 その周りを医者や看護婦が囲み、家族のものが囲み──といった状況が、映画や舞台でも見ているように、すべて見える。
 ある体験者が語るには、自分の死骸を残してみんな去っていったあとで、看護婦が枕元にあったキャンディをつまんで帰った、というのまで見ている。
 どの体験者も共通して、驚くほど克明に見ていることは確かで、どういうふうに自分の寝まきを整えていったかということまで、すべて見ているのだ。
 一方、空中に浮んでいる自分自身はどうかというと、目の前にある死骸と、五体まったく同 じである。爪の生え方まで同じであることが判るという。だから、なぜ自分が死んだのか判ら ない。不安な気持になってくる。早く自分の死骸に帰りたいと思っている。
 しばらくすると、〃お迎え〃が来る。
 それもひとりではなく、いろいろいるのだが、まったく見ず知らずのものばかりである。や がて、彼らとディスカッションをしている間に、突然、目もくらむような〃光〃に包み込まれる。
 それは人間のかたちをしているのではないし、何んともたとえようもないものであるのだが、 すばらしい〃白光体〃であることは確かなのだ。その白光に包まれると、「こういう状態だった ら、いつまでいてもいい」「お願いしてでもここに置いてもらいたい」という気分になってきて、 先刻までの自分の死骸に帰りたいという欲望はどこかへ消えてしまう。 もう帰りたくないという気持でいっばいになるわけである。
 従って、このままの状態でいれば、永遠に〃蘇生〃しないわけであるが、体験者たちはこの時点で引き戻されることになる。
 いやいや引き戻されて、また暗くなって、ドーム状のところを一気に急降下するのである。
 はっきりと覚えているのはここまでで、ふっと気が付いたら、自分のペットの中で〃蘇生〃 しているのである。
 ここまでは、過去何千人何万人という人びとが共通に体験している〃事実〃なのである。
 この間、実際にはどのくらいの時間が経過していたのか。
 だいたい食事をするくらいの時間。つまり、せいぜい10分前後の話なのである。
 より詳細な個々の事例を知りたい方には、先述の『かいまみた死後の世界』を一読されるよ うおすすめする。

各研究者がまとめた共通体験

 レイモンド・A・ムーディ Jr.博士

    ○ 死んだという感じ
    ○ 安らぎと苦痛からの解放
    ○ 肉体離脱(体脱)体験
    ○ トンネル体験
    ○ 光の人々
    ○ 光の存在
    ○ 一生を振り返る
    ○ 急速に天空へ昇る
    ○ 戻ることに対するためらい  
    ○ 時空の感覚が異なること

 ジョージ・ギャラップ・Jr.

 プリンストン大学卒業。
 人間の生活のあらゆる分野にわたる世界最大の調査機関・ギャラップ世論研究所長ジョージ ・ギャラップ・Jr.は、合衆国全体で800万人の成人に臨死体験があることを明らかした。
 つまり、20人に1人の割合で臨死体験があるのである。
 さらにギャラップは、こうした臨死体験の要素について調査し、その内容を分析することができた。

    ○ 肉体離脱………………………………26%
    ○ 正確な視覚……………………………23%
    ○ 物音や声が聞こえる………………… 17%
    ○ 安らぎと痛みからの解放…………… 32%
    ○ 光の現象………………………………14%
    ○ 一生を振り返る……………………… 32%
    ○ あの世にいる………………………… 32%
    ○ 他の存在との出会い………………… 23%
    ○ トンネル体験………………………… 9%
    ○ 予知……………………………………6%

 この結果、臨死体験は研究メたちがそれまで考えていたよりはるかにありふれた現象であることがはっきりした。

  ケネス・リング

 1977年に臨死体験の研究を始めたケネス・リング(コネチカット大学教授)は、医療機関の協力と地元の新聞広告などで、死にかかって蘇生した120人を探しだし、その48%が臨死体験 をしていたこと突き止めた。ムーディーの研究を参考にして10項目の体験要素に分け、合計29点満点の得点をつけ、6点以下は切り捨てるという厳しいデーター処理をした。
 主な体験要素は次のようになる。
 数字は、全調査に対するパーセントである。

    ○ 安らぎに満ちた気持ちよさ……………60%
    ○ 体外離脱………………………………37%
    ○ 暗闇(トンネルなど)の中に入る……… 23%
    ○ 何らかの超越的存在との出会い…… 20%
    ○ 光を見る………………………………16%
    ○ 人生回顧………………………………12%
    ○ 光の世界へ入る………………………10%
    ○ 死んだ親類・知人との出会い………… 8%

 この結果、性別・社会階層・人種・既婚か・未婚か・宗教・ 臨死体験の予備知識の有無など、全く関係がないことがわかった。
 そこで、臨死体験はほぼ万人に普遍的に起こりうる現象と考えられるようになった。